5)霊示ヒーリング(リーディング療法)
「霊示ヒーリング」の特色
病気で苦しんでいる人が、霊能者の所に足を運んでその前に座ります。しばらくすると「霊(スピリット)」が霊能者に乗り移って、何やら語り始めます。「霊」は入神状態の霊能者の口を通して病人の診察結果を述べ、病気について説明し、服用する薬草の名前を告げます。病人が家に帰って「霊」から教えられた通りに薬草を入手し、それを煎じて飲み始めると、数日もしないうちに病気が治っていきます。病院に行って検査を受けると、検査値はすべて正常で、これまでの病気はすっかり治っています――以上は「霊示ヒーリング」の一般的な様子を述べたものです。
「霊が治療のアドバイスをする」「霊が治療法を教える(示す)」ということから、これを「霊示ヒーリング」と呼びます(*「霊示ヒーリング」という用語は、本サイトで初めて使用しています)。
霊示ヒーリングでは普通、霊能者は入神状態に入ります。外見上は「入神談話現象」(*霊界通信の一種)と同じです。一般の入神談話では、霊界からさまざまなテーマに関する霊的知識がもたらされますが、霊示ヒーリングでは、霊が示す内容は治療に関係する知識に限定されます。これは霊界からアドバイスをしてくる霊が、主として医学に関わる「霊(霊医)」であるからです。
霊示ヒーリングは、必ずしも入神談話の形式をとるわけではなく、霊能者が霊界の霊医からメッセージを聴き取って地上人に伝えるという形をとることもあります。こうした「霊の声を聴く」というケースは、精神的心霊現象の一種である「霊聴現象」に当たります。一方、「霊からアドバイスが送られてくる」という点に注目するなら、霊示ヒーリングは「霊界通信」の一種と見なすことができます。このように霊示ヒーリングは、「霊聴現象」や「霊界通信」といった心霊現象と「スピリチュアル・ヒーリング」の両方の要素を兼ね備えた治療法と言えます。
これまで紹介してきたさまざまなスピリチュアル・ヒーリングは、ヒーラーが“治療エネルギー”を患者に与えて治療するというものでした。しかしこの「霊示ヒーリング」は、ヒーラーが治療エネルギーを患者に与えるのではなく、「霊」が患者に治療法を示して病気を治療するという点で、多くのスピリチュアル・ヒーリングとは根本的に異なっています。しかし霊界からの働きかけによって地上の患者の治療が行われるという点から見れば、霊示ヒーリングは正真正銘の「スピリット・ヒーリング」と言うことができます。
エドガー・ケイシーの医療リーディング
「霊示ヒーリング」で世界的に最も有名な人物が、エドガー・ケイシー(1877~1945年)です。エドガー・ケイシーのヒーリングは、一般には「リーディング療法」として知られています。“リーディング”とは、霊界通信の一つである「入神談話現象」と同じもので“トランス・チャネリング”と呼ばれることもあります。
ケイシーが横になって目を閉じ催眠(入神・トランス)状態に入ると、「霊」が語り始めます。ケイシーの信奉者は、この霊が語る「入神談話」という解釈を認めず、ケイシーの超人性による特殊な出来事と見なそうとします。そして「ケイシーは、入神状態下で霊界のアーカシック・レコードにアクセスして、さまざまな情報を入手してきた」と主張します。彼らは、ケイシーが並外れた能力を持った超人であったために、そうしたことが可能になったと考えるのです。ケイシーの信奉者は、ケイシーを世間一般の“霊媒”と同列に論じたくないようですが、実際にはケイシーは、ごくありふれた入神談話の霊媒(チャネラー)だったのです。
ケイシーは熱心な信奉者によって超人に祭り上げられ、崇拝の対象にされてしまいました。霊的観点から見れば、ケイシーは単なる“霊媒(チャネラー)”にすぎませんが、信奉者によるケイシーの評価は誇張・誇大視されています。ケイシーは目覚めたとき、入神中に自分が語ったことを全く覚えていません。それはケイシー・リーディングが「入神談話現象」と同じものであることを示しています。
ケイシーを通じて霊界から霊的情報がもたらされましたが、その多くは病気治療に関するものでした。ケイシーの「医療リーディング(霊示ヒーリング)」では、病気の診断だけでなく食事やマッサージ・医療品などに関する膨大なアドバイスがなされました。ケイシーの口を通じて示されたアドバイスは、当時の医学常識からは逸脱した内容も含まれていましたが、患者がそれを忠実に実践すると、奇跡的に病気が治癒しました。こうして当時の西洋医学から見放された重症の患者が、ケイシーの医療リーディングによって救われました。
ケイシーの「医療リーディング(霊示ヒーリング)」は1万件近くにものぼり、弟子たちによって記録され、整理されて“ケイシー療法”として確立することになりました。そして現在でも、ケイシー療法は世界各国の熱心な信奉者によって実践されています。
ケイシーが活躍した時代は、スピリチュアリズムにおいて「スピリチュアル・ヒーリング」が展開し始めた時期と重なります。この点から考えると、ケイシーの「医療リーディング」はスピリチュアリズム運動の一環として位置づけされていたものと思われます。英国でスピリチュアル・ヒーリングの展開によって人々への“霊的啓発”が進められていったのと同じように、アメリカではエドガー・ケイシーの医療リーディングを通じて人々への“霊的啓発”が進められていきました。その後、20世紀末にはアメリカで“ニューエイジ運動”が大々的に展開するようになりましたが、ケイシーはそのニューエイジ運動の先駆けと言えます。“ニューエイジ”は、大衆レベルでのスピリチュアリズムの展開を目的として霊界から興されたものです。ケイシーはニューエイジを誘発し、スピリチュアリズム運動において一つの役割を果たすことになりました。
霊的観点から見ればケイシーは、単なる一人の“霊媒(チャネラー)”にすぎませんが、米国人信奉者によってあまりにも誇大視され超人に祭り上げられてしまいました。ケイシーの「医療リーディング(霊示ヒーリング)」は、霊界のスピリットが主導して進める典型的な「スピリット・ヒーリング」です。その霊界からのアドバイスは、当時の人々の体質・ライフスタイルに基づくものでした。そして人種的な肉体的特色と、一人一人の「カルマ」という霊的条件をもとに示されたものでした。ケイシーの医療リーディングは、一人一人の患者を対象とした徹底したオーダーメイドの治療法だったのです。そのため当時のアメリカ人に“奇跡”と思えるような結果をもたらすことになりました。
しかしそれを現代人がそのまま真似ても、同じような結果は出ません。特に「カルマ」という個別の霊的条件を考えるなら、それぞれの患者の治療法は異なるものにならざるをえません。したがってケイシーによる膨大な医療リーディングの内容を整理しても、そこから現代人に共通する治療法は得られないことになります。
当時のアメリカ人と現在のアメリカ人とでは、体質もライフスタイルも大きく変化しているため、「ケイシーの医療リーディング(霊示ヒーリング)」はある意味で時代遅れと言わざるをえません。現在、ケイシーの後継者を自認するヒーラーたちが、ケイシーのやり方を踏襲して治療を行っていますが、いくらリーディングの外面だけを真似ても、大して良い結果が得られないのは当然と言えます。
ホセ・アリーゴと「霊示ヒーリング」
先に心霊手術について取り上げましたが、心霊手術を行うヒーラーの多くが、心霊手術と同時に「霊示ヒーリング」を併用しています。入神状態に入ったヒーラーの口を通して、「霊医」が患者に薬草などのアドバイスをしています。
20世紀最高の心霊手術ヒーラーと言われたホセ・アリーゴも、入神状態でさまざまな薬草を指示しました。アリーゴが処方した薬の多くは現代医学の薬物と同じものでしたが、中には世間には全く知られていない薬草の処方もありました。
薬師如来信仰と「霊示ヒーリング」
霊示ヒーリングは古来、世界各地のシャーマニズムの中で日常的に行われてきました。人々が霊媒(シャーマン)にお伺いを立てると、入神状態に入った霊媒の口を通して、霊的存在者(霊・カミ・ホトケなど)が病気の診断をし、治療法を示しました。日本の場合、霊示ヒーリングは「薬師如来信仰」の中で広く展開することになりました。
日本では、仏教の伝来当時から薬師信仰が続いてきました。多くの寺には薬師如来像が安置され、病気を癒す仏様として人々の信仰を集めてきました。薬師とはクスシ、すなわち医者を意味しますから、“薬師如来”とはまさに医者の役割を持った仏様ということになります(*“薬師如来”は、薬ツボを持った仏像としてつくられました)。「病人やその家族が薬師如来に必死に祈ると本当に病気が治った」という奇跡話が、あちこちで聞かれました。また、「祈りの最中に薬師如来が現れて薬草を教えてくれた」という話が広まり、その寺には多くの人々が殺到するようになりました。こうした薬師如来信仰に見られる霊界からのアドバイスも「霊示ヒーリング」と言えます。
霊示ヒーリングで治療法をアドバイスしてくるのは、薬草などの知識のある「霊医」で、地上時代に同じような仕事に携わっていた者(医者)です。薬師信仰で薬草についてアドバイスしてきたのも薬師如来ではなく、霊界にいる「霊」だったのです。その中には、地上時代に漢方医として治療に携わっていた霊が多くいます。
「霊示ヒーリング」の問題
地上人にとって“神仏からアドバイスを受ける”ということは、奇跡的な出来事のように思われます。そのため「霊示ヒーリング」には、過大な期待が寄せられることになります。しかし何度も述べてきたように、病気の発生も治癒も、すべて「神の摂理」に基づいて進行します。病気になるのは必然的な原因があるからであり、ある意味では自業自得ということです。
病気の原因を一言で言えば「カルマ」ということになります。カルマとは「神の摂理」に反したあらゆる行為を意味します。大きなカルマがある場合には、霊的成長の歩みに支障が出てきます。そしてそのカルマを償い消滅させるために、摂理によって救済的現象が引き起こされます。それが病気をはじめとする、さまざまな苦しみなのです。この事実は――「病気の原因となっているカルマが清算されないかぎり、病気は決して治らない」ということを意味しています。これが“治療の大原則”です。カルマという病気の原因がある以上、いかなる霊医にも病気を完治させることはできません。
霊示ヒーリングにも、この“治療の大原則”がそのまま当てはまります。すなわち霊示ヒーリングによって部分的な治癒はなされても、カルマが残っているうちは完治させることはできないということです。霊示ヒーリングによって奇跡的に病気が治ったというような場合は、それまでの病苦の体験を通してカルマが消滅し、「治る時期」がきていたということです。霊示ヒーリングによって“治癒の仕上げ”がなされ、病気が完治することになったのです。