4)心霊手術(スピリチュアル・サージャリー)

想像を絶する、まさに奇跡としか言いようのない驚異的な心霊現象

「心霊手術」の特色

一般の人々にとって最もセンセーショナルなスピリチュアル・ヒーリングは、何と言っても「心霊手術」です。スピリチュアル・ヒーリングのオーソドックスな方法は、ヒーラーが患者に手をかざしたり手を当てて治療エネルギーを与えて病気を治すというものです。それに対して心霊手術では、ヒーラーが素手や簡単な道具だけで外科手術をし、患部を取り除いて病気を治します。大半の人々にとって心霊手術は、奇跡以外の何ものでもありません。

こうした常識では考えられない驚異的な現象は、すべて霊界のスピリット(霊医)によって演出されます。心霊手術ではヒーラーはたいていトランス状態に入り、霊界の医者たち(霊医団)の支配下に置かれます。そして霊医のロボット(道具)として、手術を行うことになります。その意味で心霊手術は、典型的な「スピリット・ヒーリング」と言えます。

「心霊手術」の実例

ここでまず、「心霊手術」の実例を見ていくことにします。心霊手術としてはブラジルとフィリピンが有名です。ブラジルもフィリピンもキリスト教国でありながら、心霊手術が人々に受け入れられやすい条件を備えていました。ブラジルではそれ以前から、アフリカの黒人奴隷によってシャーマニズムが持ち込まれていました。フィリピンでも土着民によって長い間、シャーマニズムが信じられてきました。そうした宗教的土壌が、心霊手術を受け入れやすくしていたのです。

さらにブラジルの場合は、アラン・カルデックのスピリティズム(フランス系スピリチュアリズム)が普及するなど、霊界からの働きかけが活発に行われていました。ブラジルの「心霊手術」は明らかに、スピリチュアリズムの普及を目的として霊界から展開されたものだったのです。ブラジルには世界的に最も有名な“心霊手術師”が現れています。それがホセ・アリーゴ(1921~1971年)です。ここではホセ・アリーゴと、彼の心霊手術の様子を紹介します。

ホセ・アリーゴは、リオの北方の小さな町で心霊手術を行いました。彼はこの小さな町で生まれ育ちましたが、教育を受ける機会に恵まれず読み書きができませんでした。鉱山労働者として生活を送るうち、30歳の頃から「心霊手術」の能力が発揮されるようになりました。アリーゴの心霊手術は、たいていトランス状態で行われるため例外的に「半覚醒状態」で行うこともあった)、アリーゴは自分が患者に対して何をしたのかを全く覚えていませんでした。自分が入神中に行っている心霊手術のフィルムを見せられたとき、アリーゴは失神してしまいました。

アリーゴは生地で生涯、心霊手術を続け、200万人もの患者を治療しました。1日に平均200~300人ものペースで心霊手術を行ったのです。アリーゴが立派だったのは、治療行為に対して一切金品を受け取らなかったことです。「神が自分を通じて仕事をしている」と心から信じ、霊界の道具としての人生を全うしました。

アリーゴの手術道具は、キッチンナイフや爪切りバサミだけで、麻酔も消毒も止血も行いません。彼の手術は熟練した外科医よりも速いスピードで行われました。その心霊手術は、白内障患者の両目にいきなりナイフや爪切りを突き刺して患部を取り出したり、ナイフで胃や腕の腫瘍を取り除くといった驚くべきものでした。こうした心霊手術は、すべて霊界の医者たち(霊医団)によって行われました。霊医団のリーダーはドイツ人医師フリッツ霊(1918年没)で、彼が主に外科を担当しました。霊医団には他にフランス人医師ピエル霊がいて内科を担当しました。また、かつて日本人医師であったタカハシ霊が婦人科と小児科を担当しました。

1950~60年代、アリーゴはブラジルの国家的英雄として名を馳せ、彼の奇跡的な心霊手術が新聞に載らない日はなかったと言われます。そしてブラジル国内は言うまでもなく、世界各地から多くの病人がアリーゴのもとを訪れました。アリーゴは医師の資格を持っていなかったため、無資格医療をしたとして2回、裁判に訴えられていますが、いずれも投獄直前に釈放されています。彼は1971年に自動車事故で死亡しましたが、その数日前に、友人に自分の死期を語っています。「霊界の道具」としての使命を果たしたアリーゴの寿命を、霊界側が彼に伝えていたのです。

現在、フィリピンには「心霊手術」のヒーラーが400人以上もいると言われます。フィリピンの心霊術師として最も有名なのは、トニー(アントニオ)・アグパオア(1932~1982年)です。彼は日本のテレビにも出演したことがあり、多くの日本人にその名前が知られています。トニーは能力が落ちた一時期、豚の肉片を用いたトリックが暴露され、この点でも多くの人々の注目を集めることになりました。

フィリピンでの心霊手術はヒーラーによって違いがありますが、トニーの場合は“神への祈り”から始まります。手のひらを患部にかざし、手刀をつくって患部をなぞると突如、メスで切開したかのように肉体が裂かれます。その切り口から手を差し込み、患部を取り出します。その後、トニーが手で切り口をなぞると、切り口は閉じて跡形もなくなります。こうした奇跡を聞きつけ、世界中から多くの病人や研究者が彼のもとを訪れました。彼は1人の患者の手術を5~10分ほどで終了し、1日に50人もの患者を治療しています。

心霊手術の様子1

手刀で患者の腹部を切開し、その切り口から手を差し込んで患部を取り出そうとしている

心霊手術の様子2

緑内障で悩む患者の右目に人差し指を突っ込み、眼球をまさぐっている

「心霊手術」の目的

心霊手術のような驚異的な心霊現象に遭遇すると、誰もが圧倒され言葉を失います。当然、それは人々の話題にのぼり、ヒーラーは世間の注目の的になります。実はそこに、霊界サイドの目的があったのです。スピリチュアリズム初期の心霊研究の時代には、奇跡的な「物理的心霊現象」が次々と演出されました。そうした驚異的な現象を見せつけなければ、当時の人々の関心を心霊世界に向けさせることができなかったからです。また、小規模な現象を引き起こすだけでは、既成宗教サイドからの言いがかりや非難に反論できません。常識では考えられないような現象を実際に目の前で演出してこそ、反対勢力既成宗教や唯物論者など)の非難をはね返すことができるのです。

心霊手術はすべて霊界のスピリット(霊医)によって行われますが、実は心霊手術を演出するようなことは、霊医にとっては本意ではありません。仕方なくやっていることなのです。心霊手術は、いまだ心霊知識がなく霊的に未熟な段階にいる地上人のために演出される心霊現象です。それゆえ心霊手術は、スピリチュアリズムの「霊的真理」を受け入れる前段階の地域で発生するようになっているのです。19世紀後半の欧米の霊的状況と同じような地域で演出されるということです。霊的に一歩進んだ地域では、心霊手術ではなくオーソドックスな「スピリチュアル・ヒーリング」が主流になります。

先に述べたように「心霊手術」は、霊界のスピリット(霊医団)によって演出されます。霊的知識を知らない地上人に常識では考えられないような“奇跡”を見せつけて、人々の関心を霊界に向けさせることが目的です。患者の病気を治すことが、心霊手術の主な目的ではありません。この点ではスピリット・ヒーリングと同じです。

心霊手術では、ヒーラーが患者の肉体を素手で切り開いて、手を患者の肉体の内部に突っ込み、患部を取り出すといったショッキングな演出がなされます。その結果、患者本人も周りの人たちも“奇跡によって病気が治った”と、大喜びします。皆、奇跡的な現象を前にして“これで病気は完治した”と考え、満足してしまいます。

しかし霊界の人々にとっては、病気を治すことがメインではありません。驚異的な現象を演出するのは、人々の関心を霊界に向けさせるためです。それができて初めて、目的を達成したことになるのです。霊界の人々にとって病気が治るかどうかは、さして重要なことではありません。治っても治らなくても、どちらでもいいのです。心霊手術はスピリチュアル・ヒーリング(スピリット・ヒーリング)の一つとして、スピリチュアリズムの「霊的真理普及活動」の底辺部における役割を担っているのです。

「心霊手術」のメカニズム

現代医学と同じような手術を素手やナイフを用いて行うことで、地上人の目には“奇跡”として映ります。現代医学では考えられないこと、常識では考えられないことを実際に行ってこそ、人々は“奇跡が起こった”と思うようになるのです。心霊手術はまさに、こうした目的にそって演出される「心霊現象」です。

心霊手術を演出する霊界の医者は、地上人の肉体の仕組みを熟知しています。そして「潜在意識」に働きかけて、地上人の肉体を完璧にコントロールすることができます。そのため地上の医者のような、麻酔による痛みのコントロールや止血処置・傷口の縫合・血圧や呼吸のコントロールなどは不要となります。霊医はこうした状況下で、心霊手術という驚異的な現象を演出するのです。素手や簡単な道具を使って、麻酔や消毒・止血処置・縫合処置もせずに手術を遂行します。メスは演出のために用いているだけで、本当はそれも不要です。

心霊手術におけるすべての作業は霊医によって行われます。手術の最中、地上のヒーラーは霊医の“手術用ロボット”になっています。ヒーラー自身にも、どうしてこういう現象が起きるのかが理解できません。ただ、霊医に導かれるままに作業を進めているのです。傍からはヒーラーが手術をしているように見えますが、ヒーラーは「霊医の道具(ロボット)」として奇跡を演出しているにすぎません。

「心霊手術」の治療効果・治療結果

霊的真理に照らして言えば、病気になるについては必然的な原因があります。また病気が治るのも、治るべき条件が満たされたからです。病気の発生・治癒はすべて、神の造られた「摂理(法則)」によって支配されています。摂理の支配の中で病気が発生し、病気が治るようになっているのです。その意味で、法則を外れた奇跡というものは決して起こりません。地上人が期待するような奇跡は、あり得ません。心霊手術は、しばしば奇跡の代表として取り上げられますが、それは霊界の霊によって外見上、奇跡であるかのように演出されているだけなのです。

では、摂理に照らしてみたとき“病気の原因”とは何なのでしょうか。その答えを一言で言えば、「カルマ」ということになります。カルマとは、一般に言われている前世の悪業だけでなく「神の摂理」に反したすべての行為を指します。したがってカルマには、さまざまな次元霊の次元、霊の心の次元、霊肉の次元、肉体の次元)のものがあることになります。カルマの具体的な内容は、人間のエゴ・物欲・精神の不調和に発する利己的行為、不自然なライフスタイルや肉体の使用(酷使)などです。神の摂理に反するこうした行為が「カルマ」となり、それを償うために病気などの苦しみが摂理の働きによって引き起こされるのです。考え方によっては、病気は悪いカルマを償い清算するために必要なもの、ありがたいものと言えます。

病気の原因となっている「カルマ」が清算されないかぎり、どのような治療を受けても病気は完治しません。これが治療に関する“大原則”です。いかなる治療法であっても、この原則から外れることはありません。それは当然、「心霊手術」にもそのまま当てはまります。したがって心霊手術で病変部を取り除いても、それだけで病気が治ったとは言えません。心霊手術はすべて演出として行われているため、ほとんどの場合、地上人にはっきりと分かるような形で病変部を取り除くことになりますが、それで病気が完治するかどうかはカルマの清算状況によります。

カルマが清算され消滅している場合には、心霊手術によって病気は完全に治りますが、患者にカルマが残っている場合には、心霊手術で一時的に病気が治っても、いずれ再発するようになります。いくら手術で患部を取り除いても、病気は再発することになります。あるいはこれまでの症状は治まっても、別の症状として現れることになります。心霊手術で完治した人は、すでに「治る時期」を迎えていた人なのです。こうした人は、他のスピリチュアル・ヒーリングによっても完治します。心霊手術で治せるのは「治る時期」のきている人だけです。この点で心霊手術は、他の一般的なスピリチュアル・ヒーリングと何も変わりません。

実際にある研究者が心霊手術後の経過を調査していますが、それによると奇跡的に完治した人がいる一方で、全く治らなかった人、かえって病気が悪化した人もいたことが報告されています。心霊手術による治癒は、人々が期待するほど確実なものではないことが分かります。

「心霊手術」の問題

心霊手術には驚異性があるため、患者と家族は「これで病気が完治した」と思いこんでしまいます。「神が奇跡を起こして病気を完全に治してくれた」と信じ込んでしまいます。しかし実際には今述べたように、病気の発生も治癒もすべて摂理に従って展開しています。決して奇跡は起こりません。心霊手術は、地上人の目に“奇跡”として映るように、霊医がわざわざ演出しているのです。

人々は目覚しい奇跡的現象を引き起こすヒーラーを神格化し、神の化身のように思ってしまいます。その結果、ヒーラーには多くの金品や名声がもたらされることになります。心霊手術のような派手な現象には、この世的な誘惑が付きまといます。大半のヒーラーは「霊的知識」が乏しく、善良ではあっても「霊界の道具」に徹する智恵も信仰心もありません。何よりもこの世の誘惑に弱い面を多分に持っています。そしてしばしば誘惑に負け、欲望に翻弄されて堕落してしまいます。これは他の多くの霊能者にも共通することですが、「心霊手術」のヒーラーには特にその傾向が強いのです。

地上のヒーラーが堕落し、道具として使い物にならなくなると、霊界側は強行な手段に出て、一切の霊能力を奪ってしまいます。霊界からの協力が得られなくなると、心霊手術はできなくなってしまいます。このような状況に立たされたとき、ヒーラーが自分のあり方を反省して心を改めるなら、再び霊界からの協力が得られるようになり、心霊手術を再開することができるようになります。しかしヒーラーの中には、自らの不正を反省することなく、名声を守るために下手なトリックに走る人間もいます。そしてその手口が暴露され、人々から“ペテン師”呼ばわりされるようになり、霊界から見捨てられることになります。

一方、心霊手術をめぐっては患者の側にも多くの問題があります。欧米や日本のようにすでに多くの「心霊知識」がもたらされ、質の高い「スピリット・ヒーリング」が行われるようになった所でも、心霊手術に期待を寄せる人間がいるということです。心霊手術の本質を理解できない人々が、病気を治してもらいたい一心で、わざわざ心霊手術を受けるために外国に出向くのです。心霊手術の盛んなフィリピンやブラジルに押しかけるのです。欧米や日本で行われているスピリット・ヒーリング以上の結果が、心霊手術で得られることはないのですが、「霊的無知」から派手な現象につられてしまうのです。

心霊手術が、欧米や日本で行われているスピリット・ヒーリングよりも高い治療効果を上げるようなことはありません。心霊手術はどこまでも、そこに住む人々の霊性レベルに合わせて演出されたものです。「霊的真理」に至る前段階の心霊現象として、霊界側が意図的に演出しているものなのです。霊的法則を無視した奇跡は絶対に起こりません。心霊手術でも、他のスピリット・ヒーリング同様、治るべき人が治っているにすぎないのです。

心霊手術は霊界の人々によって演出される現象であること、そして病気治療の結果は、どのような形式のヒーリングを受けるかではなく、患者自身が「カルマ」を消滅させているかどうかによって決定されることを理解すれば、派手な現象に惑わされるようなことはなくなります。フィリピンやブラジルに出向いて心霊手術を受けるようなことは、欧米人や日本人には必要ありません。それどころか心霊手術に頼る行為は、霊界の人々に幻滅を与えることになってしまいます。